東京都の西側の多摩地域・・・の中でもさらに西端の西多摩地域の中心都市である青梅市内。
古くからの宿場町ではあるものの、中心市街地としての賑わいは二つ手前の河辺駅前周辺に任せてしまい、青梅駅周辺の旧市街地は「祭りと花火とレトロの街」として、時間を“昭和”の時代で止めてしまおうとしています。
移動中に12時をまわったので、ここらでランチにしようと向かったのは旧青梅街道からキネマ通りに入って北へ向かい、JR青梅線の跨線橋を渡った先にある
カフェ『夏への扉』☕️。
ロバート・A・ハインラインの古典的SF小説の傑作から名前をもらった、隠れ家的古民家カフェです。
小説「夏への扉」とは、技術者としては超天才的なんだけど私生活では人が良すぎたダニィおじさんと、その飼い猫のピートとの物語。
ピートは、住んでいたコネチカットに寒くて不快な冬が来ると、家の中にあるドアのうち、どれかひとつは夏に通じているはずだと固く信じて、飼い主にドアをひとつづつ開けさせて回るような親分肌な猫。
ダニィおじさんの方は、親友に騙されて酷い目に遭いながらも、SFらしく時間を行ったり来たりの大奮闘をして、最後は読者にお望みのカタルシスをもたらしてくれるというお話です。
期待どおりにハッピーエンドになってくれるお話ってのは、私は嫌いじゃありません^^
店の所在地は、青梅市住江町。
最寄駅であるJR青梅線青梅駅からは徒歩4分ほど。
店の駐車場はありませんが、旧青梅街道沿いに「住江町有料駐車場」があるので、車で来ても比較的便利です。
駐車場からはキネマ通りを歩いて3分。
このキネマ通りは、青梅の街が絹織物や西多摩の林業で栄えていた往時には、映画館もあるような繁華街であったらしいのですが、その名残も今は僅か。
それでも、そんなレトロな通りを歩くというのも偶には乙なものです。
周囲には飼い猫のピートに因んだ訳ではないのでしょうが、猫の看板がいっぱい。
「シェーン」じゃなくて「ニャーン」(笑)。
モダンニャイムスのダジャレの出来は兎も角、ナカナカ味のある看板。
しかし、どんだけ猫好きなの?
跨線橋のすぐ横のカフェは板壁木造2階建てで、小説の描写にあるように「ティッシュ・ペーパーに火をつけたようによく燃えそうな」古民家。
一階店舗部分のみモルタル壁で仕上げている、正に昭和レトロな建物です。
コネチカットの農家よりは小さな建物なんでしょうが、窓や扉が多くて、ピートも“夏への扉”を探してまわれそう。
しかし年季のはいった建物で、維持管理していくのに却ってお金がかかるんじゃないかな?と、余計な心配をしてしまいます。
でも効率を無視してでも風情に拘っているような、ある種のクレイジーさが感じられて、こういう建物が未だに利用されているのを見ると嬉しくもなります。
子供の頃の記憶に微かに残る田舎の街の情景などが思い出されて、ここだけは昔のように時間がゆっくりと流れているような、何だか癒されるような気分になります。
もっとも、ハインラインは小説の中で、
「世の中には、いたずらに過去を懐かしがるスノッブどもがいる。・・・そんな(釘ひとつ打てないような)連中は十二世紀あたりへぶっとばしてやる」
等と、現代日本の知識人達より余程健全で前向きなことを主人公に言わせていますが、一つ前の世紀の建物を少々懐かしく思うくらいのことは、きっと彼も赦してくれるでしょう(笑)
さて、あくまでレトロな木枠の扉から店の中に入ると・・・
木枠の窓が多く開けられてい.明るい店内。
ドタバタ歩くと軋みそうな黒光りする木の床に、天井からはシーリングファン。
戦後の一時期は診療所として使われていたそうで、白いモルタルの壁はそのころのイメージか?
木製のテーブルは、真ん中に6人掛けが一つ、窓際に二人掛けが一つ。
奥のスペースにも大きめのテーブル席が一つ。
期待通りのレトロな雰囲気です。
迎えてくれたのは、ご夫婦のように見える年配のお二人。
さしづめサットン夫妻といったところでしょうか?(笑)
席数も多くはないし、店の雰囲気どおりに、ノンビリと店を切り盛りしているように見えます。
ゆったりした気分のときに、少人数で伺うのが良さそうです。
年代物の扇風機や、昭和初期のハイソな家の子のような絵も雰囲気を出しています。
おっ、飼い猫ピートが出入りしそうな掃き出し窓を発見!
灰皿にいるのはピートか?
窓側の二人掛けの席に陣取って外を眺めていると、電車が通り過ぎていくのが見えます。
子供なんかは喜ぶでしょうね。(私も少し喜んでますが)
そういえば、この前の道を登っていくと、これまたレトロ蒸気機関車が展示されている「青梅鉄道公園」に行き着きます。
外観から内装からロケーションまで、なんだかストーリーがはまりすぎですね。
席についてお冷を飲んだだけでもう満足してしまいそうですが、目的はランチでした。
フードメニューは、カレー、ビラフ、焼うどん、焼きサンドウィッチといったところ。
評判の高い『チキンカレー』セット(1,150円)を選択してみました。
注文して暫くすると、奥の厨房からスパイシーなカレーの香りが流れてきて、食欲が増してきます(喜)
炊き込んだように色のついた、ヘルシーでレトロな玄米ご飯が特徴的。
カレーは、擦り込まれた野菜か果物の甘みの後に、スバイスの程よい辛さがやってきて美味しい。
具はチキンの他にも、彩りのある野菜が多めに入っています。
スパイスの刺激だけに頼らずに、丁寧に作られたカレーです。
辛さの程度としては、激辛ではなく、大人なら誰でも無理せず食べれる程度の辛さだと思います。
少し辛いと思っても、カレーの後にサラダを食べれば、口もサッバリ。
セットの実質200円のコーヒーは、豆のブレンドが良いのか?丁寧にドリップしているのか??
雑味がなくて口当たりの良いものでした。美味しい。
パンチの強いコーヒーではありませんが、私の好みの味です。
同行者が注文したのは、一番人気らしい「野菜カレー」。
チキンカレーとほぼ似通ったビジュアルですが、ズッキーニやブロッコリーなどの野菜が多めに入っています。
大正か昭和初期あたりの、印判手のお皿も風情がありますね。
ごちそうさまです。
日常の食事としては、やや高めのランチになるとは思いますが、全体の満足度はかなり高い。
遠くから友人が訪ねて来たら、案内したくなるようなお店でした。
友人が来なくても多分また行くでしょうけど(笑)
あらすじは何となく覚えていたのですが、気になってもう一度『夏への扉』を読み直してしまいました。
作中のコネチカット州の農家は、おそらくもうなくなった(なんと核戦争で)という設定ですが、この店の建物は幸運にもまだ現役。
こんな幸運がまだまだ続いて欲しいものだと思わされる店なのでした。
小説の方は、若くて可愛くて一途なリッキィちゃんとのハッピーエンドのくだりについては、まぁおじさん作家のファンタジーだとして(笑)、
一番印象に残ったのは
「🐈猫ってそんなに可愛いこと言うの??」ってこと。
(猫の)ピートは言った。
「アルルオウルル?」
(訳)“一緒に戻っていって、二人を片づけてしまおうよ。あんたは上を、僕は下を攻めるんだ”
・・・猫を飼いたくなりました。www
カフェ【夏への扉】
▪️所在地 青梅市住江町16
▪️営業時間 10:00am-6:00pm
▪️定休日 火曜日
▪️最寄駅 JR青梅線青梅駅
▪️駐車場 なし(近くに住江町有料駐車場あり)
▪️Web-site http://www008.upp.so-net.ne.jp/natsutobi/