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山の上ホテル【宿泊記】@神田駿河台〜文豪カンヅメ用の小ホテル

レストラン充実! アールデコ調のクラシックホテル

JR中央線 御茶ノ水駅から明大通りを南に下り、西側の坂を上がった神田駿河台の一角に、川端康成や三島由紀夫、池波正太郎に山口瞳に吉行淳之介等々、数多の文豪文人達に愛された
「山の上ホテル」があります。

アールデコ調のクラシカルな外観をもつこのホテルは、元々は女性啓蒙を目的として設立された財団の施設でした。
敗戦後一時GHQに接収されてしまいましたが、返還された後、新しいオーナーがリニューアルしてホテルとして開業。
巨大ホテルチェーンの一員ではなく、独立系のホテルであるところにも好感を持ちます。
(私なんぞが応援する必要もなく人気のホテルなのですが、気分的に応援したくなるような。)

知名度の割に客室数は35と小規模で、直線や幾何学模様をモチーフにした、重厚で歴史を感じる外観がとてもカッコイイ。

戦後、まだ周囲にホテルがあまりなかった頃、もう少し南に下った神保町界隈には出版社が多くあって、そこの編集者達は遊び歩いて(?)締め切りを守れそうもない作家連中をここに監禁するように宿泊させる、所謂「カンヅメ」状態にして、原稿を仕上げさせていたそうな(笑)
その際、このホテルの小規模ゆえに行き届いたサービスや、天ぷらやステーキなどの館内レストランが提供する料理の味に魅了され、「カンヅメ」から開放された後も贔屓にして定宿とする作家が多かったそうです。

そんな文学の香り漂うストーリーを聞くと、一度泊まって文人気分に浸ってみたい気になるってもんでしょう。
距離的に、本当は神田あたりでわざわざ宿泊する必要なんてないのですが、好きな作家と同じ空気を吸って、同じ食事をしてみたいという憧れですよね。
アニメなら聖地巡礼に近いかも(笑)


アクセス

山の上ホテルの所在地は、東京都神田駿河台一丁目
最寄駅はJR中央線 御茶ノ水駅で、御茶ノ水橋口から明大通りを南に下り、下の写真の看板がある明治大学の校舎の間に挟まれた道を右折して・・・

・・・そのまま坂を上がった丘の上にあります。


駅からは歩いて5分ほどの距離にあって、周辺は大学施設に囲まれているので、明治大学通り沿いの喧騒とは隔離されたような閑静な雰囲気。

昭和戦前の一時期、機能性・効率性とデザインの調和を目指して世界的に流行したアールデコ調の貫禄ある建物が、登り坂の正面にドンと鎮座していました。

正面に立つと、ただの直方体の薄っべらい建物には醸し出せない、重厚な魅力を感じます。
気分のアゲアゲ感が、安っぽいビジネスホテルに泊まる時とは段違い(喜)
逆に敷居の高さも感じて、20代くらいの時には宿泊先の候補にはならなかったし、学生時代には近づきもしませんでしたけどね(笑)

駐車場はもちろんあって、宿泊者なら一泊1500円。

小さなホテルなのにドアマンがいるところが、ただのビジネスホテルとは格の違いを感じます。


館内の様子

館内に入り、床のタイル装飾も何やら芸術的なフロントで、予約している旨を告げると・・・

近くのテーブル席に案内され、お茶とおしぼりを出してくれました。
ほうじ茶だったかな。

旅館ならよくあるサービスですが、ホテルでお茶とおしぼりを出されたのは私は初めてです(驚)
ここの伝統?和洋折衷?? へぇ〜、面白い!

小さなホテルなので、一階ロビーのテーブル席に座る人も少なく、館内はゆったりとした空気感。
都心の大きなホテルだと、ハイクラスなところでも人がごちゃごちゃと多くて、座りたくても椅子に空きがなくって、ウロウロさせられゲンナリすることが多いのですが、ここのプライベート感のある人密度は快適でいいですね。

かつてパソコンやFAXさえもない時代には、編集者は客室でカンヅメにしている作家が原稿を完成さるのをここで待っていたそうです。

目の前のホテルショップのショーケースを見ると、どれも上品で美味そうなケーキが何種類も並んでいてちょっとビックリ。

このくらいの規模のホテルで、こんなにケーキを揃えて売り切れるのかな?と心配しながらも、部屋で朝から仕事して、午後のおやつにここでケーキを買って一服するなんてことをしてみたくなります。


客室内の様子

今回宿泊したのは3階のスタンダートなツインのお部屋。

ベッドが二つ置かれた部屋の内装はシンプルで、これといった特徴もなく、やや広めなビジネスホテルって印象。

機能的だけど、ゴージャス感まではない。

ただ、二人向かい合わせに座れるテーブルと作業用デスク、それに鏡台を加えると机が3つもあります。
そのあたりが、文筆家のカンヅメ仕様なのでしょうか。

ここは元々ホテルとして建てられた建築物ではないので、各部屋の大きさやしつらえは部屋毎に違うようです。
文豪級のお客さん達はスイートルームや、自宅のように寛げる和室を好んで利用したようですが、このスタンダードツインあたりだと、カンヅメにするなら若手作家用ってとこでしょうか。
文学賞を取った後の第一作をここのホテルで執筆すると、「売れる」というジンクスがあったとか。

でもよく見るとこれ、作業デスクの椅子も含めて、北欧デンマークのJ.L Moller(ジェイエルムラー)のものですよね。
細身の曲がり木が描くラインが優雅で、座り心地も上々。いい椅子を使ってます。
豪華には見えなくても、優美で機能的な家具にお金をかけているところに、このホテルの趣味の良さを感じます。

他の部屋の調度品はどうなっているのか、そちらにも興味が湧いてきますね。

バスルームは、これも特に特徴もない標準的ビジネスホテル仕様。

そもそも「開業当初は各部屋にバスルームはなかった」と書かれていたのは、誰の随筆だったかな?

でもアメニティは不足なく充実。

知識はないのですが、きっと品質の良いブランド品を用意してるのでしょう。

冷蔵庫の中には、ソフトドリンクやビールが一通り揃っています。
このくらいあれば、部屋に篭って作業し続けていても十分でしょう。

豪華ホテルではないので、中身は勿論有料。

無料のお茶と紅茶のティーパック、コーヒーのセットもあり。


ツインなので、二人で部屋にいるならもう少し数が欲しいけど、一階の売店でも売ってるのかな?(未確認)

窓から外を覗くと、見えるのは明治大学だか日本大学だかの校舎と、学生だか生徒だか予備校生だかが歩く姿。
まぁ学生街でもある駿河台らしい景色。

もとより絶景を期待して泊まるホテルではないので、まぁこんなもんでしょう。
隣のビルの壁が迫っているような閉塞感はないので、これはこれで良し。


周辺散策

部屋に篭って執筆でもしていればカッコいいのでょうけど、書くべき原稿もなく、待っている編集者もいないので、我慢できずに外に出てみました。
池波正太郎なんかも、晩年までよく気分転換に散歩や食べ歩きに出歩いていたようです。

10分程東に歩いて、戦災に奇跡的に遭わなかった神田須田町界隈で食べ歩きをしたり・・・

昌平橋から神田川と旧万世橋駅を眺めたり・・・

湯島聖堂の土塀の前を通りながら・・・

神田明神にお参りして・・・

鳥居横の天野屋に立ち寄り・・・

甘酒を飲んでみたりと・・・

プラプラ歩くと結構楽しいスポットが点在していて、薄暗くなるまで歩き回ってしまいました。

他にも南の方へ歩けば神田の古書店街もあるし、神保町界隈には老舗の喫茶店やらカレーの有名店なんかが幾らでもあるので、観光客気分で東京下町散歩をすると楽しいはずです。


充実のレストラン部門

山のホテルのレストラン部門は、ホテルの規模から考えると不思議なほどの充実ぶり。

一番有名な天ぷらと和食「山の上」に、メインダイニングとなるフレンチ「ラヴィ」、山口瞳の随筆にも登場してた鉄板焼き「ガーデン」チャイニーズ「新北京」等があり、どこも一定以上の評価を得ているレストラン。

池波正太郎は夏バテで体調が悪くてもここの天ぷらは食べれたそうだし、新北京は一人で入っても料理を少しづつ出してくれるので気に入っているなどと書いています。
(今はどうだか知りません)

一階には小さなバー「ノンノン」もあるし、

軽食だけで十分ならコーヒーパーラー「ヒルトップ」もあります。

そもそも部屋から出たくもないなら、ルームサービスもあるので、ラインナップは完璧でしょう。

レストランフロアの廊下には、クリスマスツリーが飾られていました。


レストランフロアにも、華美な装飾はないけど、雰囲気は良し。


でも、この日の夕食は神田須田町の「ぼたん」まで、鶏すきを食べに行ってしまったんですけどね。
ここも一度は行ってみたかったお店なもので…

何せこの神田駿河台近隣には食事処の選択肢が多すぎます(喜)
グルメな池波正太郎が居つくわけだ。


翌日の朝食は、天ぷらと和食「山の上」和定食ルームサービスで。
色々なおかずを少しづつ。年配者にとっては朝のご馳走の一つの完成形でしょう。
煮物の味付けはさっぱりと薄味。まぐろも近所のスーパーで買うような味の飛んだ刺身と段違いに美味。

池波正太郎は「十三種類のオカズが並んでいて旨かったから、ご飯三杯も食べてしまった」そうだけど、その頃よりは品数は少し減ったのかな?(それでも11ある)
それとも、13種類は常連だった池波特別仕様だったのかな?
でも、大体こんな感じの朝食だったのだろうと池波気分を味わえたし(喜)、私としては朝食はこれくらいボリュームが適量、十分満足です。


食後はチェックアウト時間(なんと標準ブランで12時)までウダウダと過ごしたのですが、どこのレストラン入らずにこのまま帰るのも寂しかったので、「新北京」のランチを予約して食べて帰ることにしました。

まだまだ食べてみたいものはあるのですが、一日四食以上食べれるほどの大食漢ではないので、今回はこれまで。
天ぷらだけでも、また機会をつくって食べに来ないといけませんね。
楽しみな宿題です。


下世話な話になりますが、こちらのホテルの宿泊費は、一般的なビジネスホテルの2〜3倍程度。
でもお値段相当の満足感はありますし、行ったところで交通費はあまりかからないので、旅行と思えば安上がりとも言えると思います。
こんなホテルに「ただいま」なんて言えるくらい常連になれたら嬉しいのですが、そこまではナカナカ、庶民には高望みすぎるかな。
・・・また頑張って稼ぎます。

ところで、このちょっとシュールで愛嬌のあるライオン親子は、妙に気になるけど何なのだろう?(楽)


ホテル情報

■所在地 東京都千代田区神田駿河台1-1
■最寄駅 JR中央線 御茶ノ水駅・地下鉄 神保町駅・新御茶ノ水駅
■駐車場 あり(有料)



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