亀の井ホテル長瀞寄居に泊まった翌朝、このまま高速道で直帰するのもつまらないので、一般道を寄り道しながら戻ることに。
寄居町内では、後北条氏の一大拠点であった鉢形城址に立ち寄り、南下して東秩父村の道の駅 和紙の里 ひがしちちぶで和紙製品を購入、その後12時過ぎのランチどきには小川町内に到着。
埼玉県の小川町は、秩父地方と川越や八王子とを結ぶ交通の要衝となる小盆地で、往時は商業的に栄えた町。
今は失礼ながらパッとしない小地方都市ですが、ヤオコーやファッションセンターしまむらの創業の地だというのだから興味深い。それに今は人口が三万人に満たない町だというのに、日本酒の酒蔵が3つも残っているのだから、それもスゴイ!
これは町がそれだけ栄えていたということもありますが、秩父山系から湧き出る、酒造りに適した豊富な地下水があったこともその理由。
そのうえ嬉しいことに、3つある酒蔵のうちの2箇所で、食事処を併設してくれているとのこと。
酒蔵の食事処なら、自慢の仕込み水や酒麹を使った料理を提供しているのでしょうから、期待が高まります。
その食事処の一つは帝松の松岡醸造内の「松風庵」さんで、もう一つは晴雲酒造に併設の「玉井屋」さん。
どちらも、東京の酒屋ではあまり見かけない銘柄だと思いますし、私も飲んだことのない銘柄の日本酒です。しかし、検索してみると、松岡酒造の方は江戸時代後期創業の造り酒屋で、全国新酒鑑評会で金賞を何度もとっている実力派醸造所のようです。
では、そちらから行ってみようかと、まずは帝松の松岡醸造の松風庵へ。
駐車場は、看板の対面に大きな広場があるので、楽に車を停められます。
正面の入口がどこかわからないので、それらしい方向へ路地を歩いて行くと・・・
ソフトクリームや甘酒の売店があったのですが、残念ながら無人。
でも、方向は合っているようなので先に進みます。
門をくぐって先に進むと、どうやらこの庭に面して増設した、サンルームのような建物が食事処のようです。
庭には帝松を象徴するような、とても枝振りの立派な庭木が鎮座。
これは五葉松かなぁ、綺麗に整ったお庭です。
中に入ると、座席は庭に面した三人掛けのテーブル席が3つに・・・
配膳担当の若手フロアスタッフが二名くらいの態勢で迎えてくれました。
あとは厨房内に何人か調理担当がいる様子。
入店時には、庭に面した席はすでに満席でしたが、ラッキーなことにすぐに一席空いて、そこに入れ替わるように座ることができました。無事に席につけて、やれやれ一安心。
これだけ庭も店内の雰囲気も素敵なお店ですから、やはり人気店となっているようです。
この後、10人弱の予約が入ったようで、厨房とフロアスタッフは、てんてこ舞いの半パニック状態。
さらにその後に来たお客さんには、待ち時間がかなり長くなることを説明して、事実上、お断りをしていました。
この様子だと予約なしで行くなら、せめて12時前には入店するつもりでいる方が良さそうですし、特に週末は予約が必要かな。
席数としては、庭から遠い奥側の席も含めて40席弱と、あまり大きなお店ではありません。
それにしても、この庭を正面に眺めて食事ができるかどうかで、満足度が三割くらいは増減しそう。
それ程に眺めていて気持ちの良い、立派なお庭です。
今回は良い席に座れてラッキー。
席につくと、まずメニューとともに持ってきてくれたのは、自慢の仕込み水で満たされたガラスのピッチャー。
松岡酒造の仕込み水は、秩父山系の石灰岩層で濾過されたミネラル豊富な硬水で、地下130mから汲み上げられたもの。
しかし、硬水でありながら、マグネシウムなどの金属系のミネラル含有量は少なく、喉越しは柔らかいという稀有な名水。
飲んでみると、確かに柔らかいだけで特徴のない軟水ではないけれど、喉に引っかかるような硬さまでは感じない、飲みやすく美味しいお水でした。こんな名水を味わえることだけでも、また貴重な体験です。
メニューを見ると、イチオシ料理は酒蔵らしく、仕込み水と塩麹を使ったしゃぶしゃぶ。
しゃぶしゃぶには、地元産のむさし麦豚のものと、金目鯛のものの二種類があります。
その他、なぜかここの店は鯛推しのようで、鯛茶漬けや宇和島風鯛めしなんて料理もあります。
さらに親子丼や、デザートなんかもあるので、小さい店ながらも色々と選択肢は多い。
その中から、私が注文したのは「むさし麦豚の塩麹しゃぶしゃぶ」(2,200円)
タレは、ゴマだれとポン酢だれの二種類があって、それぞれに塩麹と酒粕がブレンドされています。
先に野菜を鍋に投入して煮込みながら、お湯が沸騰してきたら肉をしゃぶしゃぶと。
塩麹だけに浸けても美味しいとのことで、別皿で持ってきてくれていました。
妻殿が注文したのは、もう一つの方の「金目鯛の塩麹しゃぶしゃぶ」
金目鯛も、下ごしらえを微妙に変えた三種類。
手前側に盛り付けられた漬けの刺身は、そのまま生で食べても良いとのこと。
途中で食べ飽きてしまうほどの量ではありませんが、様々、味変の工夫してくれてます。
金目鯛を一切れお裾分けしてもらいましたが、金目鯛はポン酢がよく合いました。
はい、こちらも間違いなく美味しい(喜)
下の写真に写っている、手前に並んだ三種類の黒い小壺には、薬味がそれぞれ入っていて、ご飯のお供にしても美味しいとのこと。
味変できる仕掛けが多すぎて、この薬味を使う前に、もうご飯はなくなってしまいましたが(笑)
酒蔵直営の食事処らしさのある、よく考えてアイデアが盛り込まれている、工夫されたお料理でした。
その分、お客がたくさん来ると、すぐ捌ききれなくなってパニくってしまうようではありましたが。
しかし今回のように、運よく庭を向いた窓側席に座って食事ができたなら、ブライスレスな良いランチとなることでしょう。
いや何、もし運悪く行ってみたら満席だったとしても、その時はもう一軒の晴雲酒造さんの食事処に向かっても良いし、手打ちうどんや蕎麦の店も町内にはあるので、小川町内まで車で来てしまえば、食事する場所に関しては、なんとでも対応できそうです。
食後は、直売所で日本酒を買って帰ることにしましたが、直売所の前にも仕込み水の試飲所がありました。
食事処に入らなくても仕込み水を飲むことができるので、これは良いサービスじゃないですか。
帝松銘柄の酒は飲んだことがないので、事前知識はゼロ。
何を買うかは、見て回って判断するとしましょう。
生酒も好きですけど、初帝松なので、まずは火入れした酒を飲んでみたいかな。
冷蔵以外の棚を見て歩くと、どうやらブランド最高級品は、この「大吟醸 社長の酒Premium」のようです。
四号瓶でなんと8,800円。
それにしても、なんというバブリーで分かりやすいネーミング(笑)
おそらく、とてつもなく研ぎ澄まされた美味い酒なんでしょうけど、自分で買って飲むにはちょっと高すぎます。
もっと安くて、それでいて美味い酒が存在してくれないと、経済的に困るのですよ(笑)
こちらの目を引く箱入りの酒は、「超特選大吟醸原酒」
山田錦の、それも最高品質の特A米を38%まで磨いて醸した大吟醸で、これも間違いなく美味しい酒でしょう。
品評会で連続して金賞を受賞しているそうで、いわばお墨付きの酒。
値段は四合瓶で5,500円しますが、この肩書きの酒なら妥当な値段かも。
しかしきっと、山田錦らしい香り高くて雑味のない美味い酒で、その分、意外性もないのかな?などと考え、他の酒も探すことに。(・・・つい生意気な判断をしてしまいました。)
その隣にあったのは、備前雄町の純米大吟醸「鳳翔」(3,850円)
コアなファンが多いながら、安定した醸造が難しいと聞く酒造米、備前雄町を敢えて使って醸した純米大吟醸となれば、どんな味に仕上がっているのか、とても興味深い。
値段も比較的リーズナブル。(高い酒ばかり見てきたので、金銭感覚がすこぉし、ずれてきたかな?)
てな訳で、結果、買ってきたのは、冷やで飲むための『純米大吟醸 備前雄町 「鳳凰」』と、お燗して飲むための「特別純米酒」。
正月にこの「鳳翔」を早速開けてみましたが、その味を言葉で表現するのは難しいですね。
紹介文に「ワイルドな旨みが広がったのち、爽やかなキレを見せる」とありましたが、「あぁ、なるほどね」と感じる味わい。
何やら特徴的な旨みがあって、いわば期待した通りのお酒で大満足。
うん、この具合なら、金賞受賞したという「超特選大吟醸原酒」も、ケチらずに買ってくれば良かったなぁ(後悔)
よし、また比企方面に来たら、また帝松を買って帰ろう。
ところで小川町の名物めしには昔から、二葉の「忠七めし」と福助の「女郎うなぎ」が有名。
「忠七めし」は、幕末の酒飲みの旗本(鉄舟とか何とか)が割烹旅館の主人につくらせた、食事の締めの海苔出汁茶漬けのようなもので、日本五大名飯の一つとされています。
以前は(といっても、前回食べたのは20年以上前ですが)、予約なしでも店に行けば食べることができたのですが、今はウェブサイト上に、ランチでも「要予約」と記載されているので、時間の読めなかった今回は残念ながらパス。
女郎うなぎの方は食べたことがなく、「名物に美味いものがあるとか、ないとか」言いますが、こちらも一度は食べてみたいと思っています。
こんな調子だと、小川町にはまだ何回も行かないと、宿題がなくなりそうもありません。
【酒蔵レストラン 松風庵】
■所在地 埼玉県比企郡小川町下古寺3-1 松岡醸造内
■営業時間 11:00〜15:00(L.O.14:30)
■定休日 祝日を除く木・金曜日
■最寄駅 JR八高線・東武東上線 小川町駅から2.3km
■駐車場 有り